関係者やボランティア、島の方々の熱意に感動
2023年に初めて宮古島大会に出場し、その後多くの方に「どうして宮古島大会に挑戦されたのですか?」「宮古島大会はどうでしたか?」と質問をされました。宮古島大会に出場した理由は、ロングの大会に憧れがあったからです。
トライアスロンが楽しくて、好きで長く続けてきました。幸運なことに10代で選手として試合に出られるようになり、2012年にはオリンピックにも出場することもできました。当時はショートの大会にしか出場したことがありませんでしたが、その頃からいつかはトライアスロンの原点であるロング大会に出てみたいと思っていました。2023年大会に出場したときはプレイングコーチをしていたので、「いい成績を取りたい」という気持ちがなかったわけではありません。しかし実際に出場するために宮古島へ行ったら、それまで出ていた試合のようなピリピリとした緊張感はまったくなく、自分自身もずっとワクワクしていました。


宮古島東急ホテル&リゾーツに入った瞬間から「イベントが始まった!」という気持ちが盛り上がっていきました。トランジションエリアに入ると、参加者のパワーを感じたのも覚えています。準備をしている方々を見てみると、周りの人と話をしたり、足りないものをお互いに貸し借りしたりと、競争相手と言うよりも仲間感が強かったのも印象的でした。そんな感じだったので、当日は緊張することもなく楽しむことができました。
そして何よりも宮古島大会に魅了されたのは、大会関係者やボランティア、応援して下さる島の方々のものすごい熱量! 何十年も応援してくださっているのに、あの熱量を出せるのは決して義務感だけではないはず。盛り上げようとしているのではなく、参加者と同じくらい楽しんで盛り上がってくださっている人が多いので、その姿を見ると僕たちもパワーがもらえるんです。それと同時に私たちが頑張っている姿を見て、パワーを受け取ってもらえれば最高だと思います。
ロングは自分自身と向き合う未知なる挑戦
2年連続で参加していた宮古島大会ですが、実は2025年の大会には出場することができません。実は昨年の夏、練習中に大きな怪我をしてしまい、まだトライアスロンができる状態ではないからです。現在は今年の秋に行われるオーストラリアの大会出場を目標にランニングを中心にトレーニングを再開しています。そのオーストラリアの大会はアマチュア時代に出たことがあり、出場できれば27年ぶりになります。仕事ではなく、大会から招待された訳ではなく、純粋にトライアスロンを楽しみたいと思って個人的にエントリーをしました。怪我が治ったら大会に出場したいと考えるなんて、「トライアスロンが本当に好きなんだな」と自分でも思いますよ。
「引退されたとはいえ、オリンピアンが試合に出場されるのですから、好成績を期待されているというプレッシャーはありませんか?」とたまに質問をいただきます。自分には、その類のプレッシャーはまったくありません。宮古島大会に初出場したときも、今までに経験したことのない未知なる世界に足を踏み入れることに一番の意義を感じていました。
選手時代は試合に出る以上は勝ちたいと常に思っていました。勝たなければ次の試合に出られませんし、応援して下さる方々やスポンサーの期待に応えたいと思っていました。選手時代もトライアスロンは楽しいと思っていましたが、試合に出て勝つことでしか評価されない世界なので目標と目的が近い場所にあって、常に次の試合に向かって進まなければなりません。引退した現在は純粋にトライアスロンを楽しめるので、宮古島大会のようなロングの大会に挑むときは、ロング初心者の自分にとっては練習も試合もすべてが新鮮です!


実は、2023年の宮古島大会初挑戦のときは、あえてロングのための練習はしなかったんです。自分の体力や経験から「完走はできるはず」とは思っていましたが、心のどこかで「本当に走り切れるのかな」とチラリと思ったことも白状しておきます。
ロングの先輩からは、「バイクはしっかりメーターを確認して、心拍数が上がり過ぎないようにするものだよ」とアドバイスをいただきましたが、せっかくの初挑戦は自分と対話をしながらレースをしたいと思って、メーターは見ませんでした。決していい加減な気持ちで挑んだのではなく、未知なる挑戦の答え合わせを試合当日にしたかったというのが本音です。
巻き返しのきくロングは踏ん張り力を発揮して
自分と向き合いながら挑んだ初めてのロングの大会は、今までに経験したことのないものになりました。ロング用の練習はしなかったとはいえ、頭の中でいろいろとシミュレーションはしていました。でも、その作戦はまったくうまくいかず、レース中「試されているな」と何度も感じることがありました。バイクで向かい風がきつくて進まなかったり、そうかと思えば逆方向の追い風では想像以上にスピードが出たり。
ショートの大会では、プラン通りにいかずにミスをひとつでもしてしまうと優勝は困難となります。距離が短いので、取り返しがつかないのです。しかし、逆にロングの大会では何もなくレースが進むということは絶対にありません。むしろ想定外のことばかりが起こります。つまりミスをしてしまっても、挽回のチャンスがあるのがロングのいいところと言えるのではないでしょうか。スイムで流されてしまったから、もうこのレースは終わりだというのではなく、次の周回は斜めに泳いでみるといった具合に粘ることができます。
私はまだまだロング初心者ですが、ロングは踏ん張り力が大切だと思いました。うまくいかないことがあっても、目的やゴールに向かって進んでいけば盛り返すことができます。まさに人生と同じだと思います。初めてロングに挑戦する方は、体力的にきついと思う瞬間があるはずです。そんなときはスピードを緩めたり、補給食を摂ったりしていると体力、気力が復活することもあるので試してみて下さい。
実は私も2023年大会ではアクシデントが起こりました。それでも完走できた理由を次回はお話したいと思います。
- 2011年、2021年 日本トライアスロン選手権優勝
- 2010年、2014年 アジア競技大会 トライアスロン競技優勝
- 2012年 ロンドンオリンピック出場